解析事例

一次元ドリフトフラックスモデルを用いたレアアース泥揚鉱システムの性能計算

1. はじめに

レアアースは,希土類元素と呼ばれるレアメタルに属する金属です.光学的,磁気的な特性に優れ,機械装置,システムの性能や機能を向上させます.環境にやさしく持続可能なグリーンテクノロジーが推し進められる中,レアアースは,今後さらにその需要が高まっていくと考えられます.レアアースは,世界的にみるとその供給地域が偏在していますが,日本の領海・排他的経済水域の南鳥島海域の水深6000mの海底に,このレアアースを大量に含む泥層(レアアース泥)が存在することが明らかにされ,その調査や,利用しようという研究,開発が進められています.

その採鉱システムは,エアリフト揚鉱システム(図1:左)といって,採鉱船から海底下に降ろされたパイプ(揚鉱管)の途中から圧縮空気を吹き込むことにより,揚鉱管内の圧力が,外部の圧力より小さくなることを利用して,海底からレアアースを含む泥を吸い上げ,船上まで運搬する装置が検討されています.ここでは,その採鉱システム(エアリフト揚鉱システム)の基本仕様を知る目的で,性能計算を行いました.揚鉱管内の圧縮空気とレアアース泥を含む海水(レアアース泥水)の混合流体(気液二相流)の解析手法として,一次元ドリフトフラックスモデル1)を使います.またレアアース泥水の流動特性は,南鳥島海域から採取したレアアース泥を使った実験2)より得られた実験式を使用します.

図-1 海底鉱物資源の採鉱システム(左:エアリフト,右:ポンプリフト)3)

2. シミュレーション

図-2に解析モデルを示します.揚鉱管は全長6040m,水深は6000m,水面より上部の長さは40mで,揚鉱管径は0.15mないし0.2mです.空気吹込水深は,2000ないし3000mです.この揚鉱管を軸方向に長さ20mごとに等分割し,302の要素を作成して計算します.揚鉱管下端と上端部分はそれぞれ圧力境界とし,下端部分は水深に相当する静水圧を,また上端部分は,直管部の先に長さ5mの水平管が接続されているとして,その圧力損失を計算し,揚鉱管出口部の圧力(背圧)にその圧力損失を加えています.空気流量は,2ないし10kg/s とし,空気吹込位置に相当する要素に,空気流量に相当する生成項を付加しています.背圧は,零ないし0.4MPa(G)までの値を設定しています.時間刻みは4秒です.

図-2 解析モデル3)

図-3に解析結果を示します.横軸に揚鉱量,縦軸に泥水速度を示します.図中に空気流量ごと,5本の性能曲線が示されていますが,空気流量が大きくなるにつれて,性能が良くなっていきます.それぞれの空気流量で,揚鉱管内の濃度を上げていくと,徐々に泥水速度が低下してきます.ある濃度のところで,それ以上濃度を上げることができなくなり,揚鉱限界となります.系統的に計算パラメータを変えて性能評価をしたところ,背圧が0.2MPa(G)で,空気吹き込み水深を3000mの場合,最大揚鉱量は約1000t/d,体積濃度は6.2%となりました.

 

図-3 性能特性3)

参考文献

1). Hatakeyama, N.: PhD thesis, Tohoku University (1995).

2). Shimizu, Y. et al.: “Flow Characteristics of Slurry with Rare-Earth Rich Mud under Deep Seabed around Minamitorishima”, J. MMIJ, Vol.135, No.7, pp52-62 (2019).

3). Shimizu,Y., Hatakeyama, N. and Masuyama, T.: “Numerical Analysis on Air-Lift Pumping System for Mining Rare-Earth Rich Mud”, J. MMIJ, Vol.134, No. 10, pp142-150 (2018).